久敬さんの天登り
久敬さんの天登り・第16回(平成11年3月掲載)
その昔、宅間田村に久敬(きゅうけい)さんと言う名の、大変トンチのきく人が住んでいました。
ある日のこと久敬さん宅では家の新築をすることになり、土を運んで地高めをしました。ところが地面がなかなか固まってくれません。うまく地面を固めるために、何かよい知恵はないものかと、ひと晩じっくりと考えてみました。あくる朝、久敬さんは大声で、「きょう天に昇るけん、だっでんうちに集まって」と、村中に触れて回りました。それを聞いた村人たちは、「久敬さんが天に昇るち、いったいどげなこつじゃろか」と首をひねりながら、ぞろぞろと連れ立って、久敬さん宅へ集まって来ました。そこには地高めした土地のまん中に、太くて長い竿が立てられていて、その根元に久敬さんが立っています。
村人たちの集まり具合を見はからって、久敬さんはおもむろに口を開き、「集まってもろたつはほかでもなか。今から天に登るけん、おりが一尺登るごつに、だっでん手をたたいて、力一杯に足ば踏みならして応援してもらえんじゃろか」と頼みました。村人たちは言われたとおりに、久敬さんが一尺、二尺と登るごとに、手をたたいては力強く足を踏みならしました。「そん調子、そん調子バイ」と言ってニヤリとしながら、久敬さんはさらに高く登っていきました。
村人たちもそれにつられてさらに力強く、「久敬さん、ガンバランない」と手をたたき、足を踏みならし続けました。
それを何回も何回もくり返しているいるうちに久敬さんは、とうとう竿のてっぺんまで登り着き、上を見上げながら、「しもたぁ!ねえごつか知らんばってん、今日は天の入り口の戸の閉まっとるけん、いかれんバイ」と言うやいなや、一気にするすると降りて来たではありませんか。あっけにとられた村人たちは、「なぁんか、そげなこつじゃったつか」と、ぶつぶつ言いながら帰っていきました。
その後で久敬さんは、「天に登られんちゃ分かっとる。ほんな目的は、地面ば固めるこつじゃった。お陰でむごう地の固まった」と、言って周囲を大笑いさせたとか。
方言解説
- だっでん … 誰れでも。
- どげなこつ … どんなこと。
- しもたあ … しまった。
- ねえごつか … なにごとか。
- なぁんか … なぁんだ。
- むごう … うまく、立派に。
- そげなこつ … そんなこと。
広川町郷土史研究会
- 文・岳野 住人
- 画・梅本 光男
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