筑後弁を混じえた角蔵ばなし
筑後弁を混じえた角蔵ばなし・第6回(平成10年5月掲載)
ある日のことです。一生懸命に働いている角蔵に長者殿が、「あすなさはよう、久留米までいたってもらわんといかんけん、きょうははよやめて、よこてくれんない」と言いました。
「こりゃあ、よかあんべ」と、角蔵は大喜びです。早仕舞して、明るいうちに風呂に入り、早々に休みました。
問題は翌朝に起きました。夜が明けて、太陽がずい分高く昇っても、一向に角蔵が起きてくる気配はありません。
かんかんに怒った長者殿が、角蔵の寝床に行って見ますと、なんとグーグーと高いびきで寝ているではありませんか。
「けさはよ、久留米までいたてもらわにゃんち、あげん言うっとたろが」と、長者殿が怒鳴り声で言ったものですから、角蔵はびっくりして飛び起きました。
そて答えることが振っています。「久留米にゃ、もういたて来て、戻ってひとよけしとっとこです」、さらに加えて一言、「用んあんなら、はよ言うとってもらうと良かったつに」と、平然たるものです。
これには日ごろ口うるさい長者殿も、開いた口がふさがりませんでした。
角蔵と言えば足の速いことでは近隣に聞こえた男でしたが、このように時々、庄屋殿や長者殿を相手に頓智を効かせた掛け合いをやっては、周囲を笑わせてもいました。
なかなかの渋膽丸の男ではありましたが、どことなく憎めない人の良さがありましたので、村の衆からは「角蔵どん、角蔵どん」と親しまれていたと言うことです。
筑後弁の説明
- あすなさはよう … 明朝早く。
- いたてもらう … 行ってもらう。
- いかんけん … いけないから。
- よこてくれんない … 休んでくれ。
- あげん … あんなに。
- ひとよけ … ひと休み。
- しとっとこ … しているとこと。
- 言うとって … 言っておいて。
- あんべ … 按配、具合い。
藩政時代には村々の生活状況は、決して楽ではありませんでした。そんな中にも、どこの村にも角蔵のような頓智の効いた人がいたものです。
有名なのが、吉四六さん(豊後)であり、とんち彦一でしょう。
私たちの近隣にもたくさんいます。三潴には権祢どん、久留米の飯田には茂左どん、八女の宅間田には久敬さんなどなど、それぞれに似たような筋の話がたくさん語られています。厳しい生活の中で民衆は、せめてもの溜飲を下げていたのです。
広川町郷土史研究会
- 文・岳野 住人
- 画・梅本 光男
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